◆「ミステリーYA!」の魅力◆
渡辺 忠(beco cafe・吉っ読)
少し泣きそうになった。牧野修『水銀奇譚』を読み終わり、作者あとがきを読み始めた時である。あとがきの出だしにはこうある。
もしかしたら、とわたしはたまに思うことがある。もしかしたら、わたしの書いた小説で、誰かを救うことができるのではないかと。
少年少女にむけた本格ミステリー・SF・ファンタジー・ホラー、各ジャンルの大御所・若手豪華執筆陣(有栖川有栖、皆川博子、海堂尊、柳広司など)が子どもたちにむけて書き下ろす理論社のシリーズ「ミステリーYA!」。そんな「ミステリーYA!」の魅力をちょっとでもお伝えできればと思います。冒頭にあげた牧野修さんが書かれているように、この「ミステリーYA!」ではどの作家さんの作品も、子どもたちに真摯に向かい合って、物語によって何かを伝えるんだ、という気持ちが強く読者にわかるようになっているのが魅力になっています。
子どもたちは成長のなかで、何を失い、何を得るのか……。それぞれの物語の描き方、答え。作家さんごとのカラーを、色とりどり楽しめる充実内容、それが「ミステリーYA!」なのです。そんなシリーズの中から三作ほど紹介してみますと。
離れてゆく友だちと少しずつ大人になってゆく自分を、恐竜の謎を中心に書いた山田正紀『雨の恐竜』。小学校のとき仲が良かった友だちも、中学にあがるとなぜか少し距離ができるという誰もが経験のある胸キュンな事象が描かれ、それが恐竜ファンタジーに落ち着くという魔訶不思議さが魅力。
小学校のときに埋めたタイムカプセルの謎を巡る、折原一『タイムカプセル』。タイムカプセルってやっぱり埋めますよね! 埋めましたよ、私も! 読者も物語の主人公たちと一緒にタイムカプセルの中を確認しているような気持ちになれる構成の後半は、ワクワクです。
憧れの大学サークル生活をおもしろくミステリーにしたてた大倉崇裕『オチケン!』なんかは、単純に大学ってこんなに楽しいんだぜ!ってのがひしひし伝わってくるし、落語をわかりやすく、寿限無などの定番から教えてくれるというサービス精神が何とも言えず良いなぁと。
さてここまでくるとお気づきですね。はい、子どもむけシリーズですが大人も充分楽しめます。だってね、大人も子どもだったわけですから。自分の身体に眠る子どもの部分を鷲掴みにしてくれて、かつ大人も楽しめる謎と解決を用意していてくれるとなると、もう読まざるをえませんよね?! さあ、子どもに戻って、レッツYA読書!
文中で紹介した理論社の本:
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