空犬です。今日から数回に分けて、イベント「わっしょい!理論社」で配布した冊子に掲載の原稿を紹介します。
*冊子では、理論社の出版物のうち、「大人におすすめ」をキーワードに、書き手がこれぞと思うものを3冊程度、ピックアップ、大人の読みどころなどを紹介しています。
*『……』は書名、「……」はシリーズ名または作品集に収録の各作品名です。文中で取り上げた本(理論社以外の出版社のものは除く)の詳細は、それぞれの文章の最後にまとめてあります。
*原則として、執筆時に入手可能な本に限りましたが、本によっては書店に置いていないものもあります。書店で注文するか、もしくは理論社に直接問い合わせてみてください。
理論社tel 03-3203-5791 / fax 03-3203-2422 / sale@rironsha.co.jp
◆さらりと読んでも、深読みしてもおもしろい◆
なつめ(出版編集)
- 『頭のうちどころが悪かった熊の話』
- 『ペンキや』
- 『ともだちは海のにおい』
オトナに薦める理論社の本、というお題を頂いて、まず思い浮かんだのが『頭のうちどころが悪かった熊の話』。表題作をはじめ、熊やトラ、ヘビ、カラスなど、野や森の生き物たちを主人公にした短編7作を集めた、オトナのための寓話集です。個人的にはオタマジャクシの少年の成長譚「池の中の王様」がお気に入り。
生まれたときから「どうして?」と、質問ばかりしているオタマジャクシの子「ハテ」は、親元を離れて広い世界へ旅立ちます。「自分だけの世界の王様」たろうとするハテが出会う広い世界(とはいえそれも小さな池の中なのですが)の厳しい現実、そこで出会ったヤゴとの間に芽生える、「狩るもの」「狩られるもの」の間の友情、のようなもの。「井の中の蛙大海を知らず」という諺をモチーフにしつつ、独特の世界が展開されます。ヤゴと「ハテ」との関係は、井伏鱒二の名作『山椒魚』へのオマージュのようでもあり。さらりと読んでも楽しめますが、深読みしてもおもしろい作品集です。同じ作者の『まるまれアルマジロ!』も、理論社から。
絵本の世界には「職人もの」というジャンルがあると個人的に思っていて、このジャンルでは、ゴフスタインの『ゴールディーのお人形』(すえもりブックス)とかアーディゾーニの『時計つくりのジョニー』(こぐま社)なんかが特に素晴らしいと思うのですが、この『ペンキや』もそんな「職人もの」絵本の傑作のひとつ。『西の魔女が死んだ』(楡出版)の梨木香歩さんの文です。
亡くなった父と同じペンキ職人となった主人公「しんや」が追い続ける「ユトリロの白」。出久根育さんの絵は癖のある絵柄ですが、とにかく最後まで読んでみて! 必ずこの絵も大好きになるはず。静かで穏やかなラストシーンの美しさは、まるで映画のよう。
『ともだちは海のにおい』は本当に老若男女にオススメできるテッパンの癒し本。「くじら」と「いるか」のゆったりとした友情物語が、短いエピソードとそれをモチーフにした詩を波のように順に繰り返す構成の中に展開される、物語詩あるいは詩物語。くじらはビールが好き、いるかはお茶が好き。同じところがあって、違うところがあって、ひとりでいるとふと会いたくなる、一緒にいるとなんだかほっとする。こんな「ともだち」がほしいなぁ…と思わずにはいられません。親友がいる人と、親友がほしい人のために。
理論社からは、同じシリーズの『ともだちは緑のにおい』や、工藤さんの息子で漫画家の松本大洋さんが挿絵を描いた詩集『こどものころにみた空は』なんかも出ています。こちらもオススメ!
文中で紹介した理論社の本:
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